
カテゴリーアーカイブ: コラム
「花の履歴書50」ヤブガラシ
ヤブガラシ(藪枯らし)ブドウ科
北海道西南部から南西諸島、中国、インド、マレーシアなど東アジアから東南アジアまでの広い範囲に分布する慢性の多年草。地下茎を伸ばして繁殖し、地上部を抜き取っても土中に残った根茎から不定芽を出して繁殖するため、一度 広がってしまうと駆除が困難な草である。
初夏から小さな花をたくさんつけているが、萼片は退化しており、花弁は薄い緑色ですぐに落下してしまう。関東以北に自生するものは3倍体で結実市内が、中部以西には実を付ける2倍体が混じり、球状の液果は熟すと艶のある黒色になる。
長く伸びた巻きひげは、触れるものがあるとすぐに巻き付くので、触ると触った側に巻き付くように運動する。この巻きひげの素早い巻き付き運動はダーウィンの時代から研究されていたという。
近年、東京大学大学院の研究により、ヤブガラシの巻きひげが動物の「味覚」と同じ能力を持っており、巻きひげが接触した物体を識別し、巻き付く相手を選び、同種の葉に巻きつくのを避けていることが発見された。
名前からしてもあまり歓迎されない植物で、他の植物を覆い隠す様に茂り、その結果覆われた植物は枯死してしまう。そのため庭の手入れの行き届かない貧乏な人の所に生い茂る。
またこの植物に絡まれた家庭が貧相に見える。あるいは植物が茂ったことが原因で貧乏になってしまう。などから和名がつけられたとされている。
子供の頃、書道の時間、ヤブガラシの巻きひげを潰して摺ると墨液が濃くなると言われ、やってみたが、結果については定かな記憶はない。
若芽は茹でて、あく抜きすると食用になり、漢名は「烏歛苺(ウレンボ)」で、根は利尿・解毒・鎮痛などに薬効のある生薬として利用している。
成長が早く、どんな場所でも育つので、緑のカーテンとして苗が売られているが、地植えにするとあとで処置に困るので、プランターを利用することを勧める。(戸部英貞)
ちょうふの自然だよりvol.146. P2 より
「花の履歴書49」ウツギ(空木)
ウツギ(空木) アジサイ科
卯の花の匂う垣根にホトトギス
早も来鳴きてしのびねもらす夏は来ぬ…
年配の人ならば誰もが知っている有名な「夏は来ぬ」の一節だが、季節の風物を見事に表現した童謡で、その情景を思い浮かべ、懐かしむ人も多いのではないだろうか。
『万葉集』にはウツギを詠ったものが24首あるが、そのうち18首がホトトギスとの組み合わせで、いかに初夏とウツギとホトトギスの関係が結びついていたかを知ることができる。
しかし、ウツギの花やホトトギスの声を耳にするような場所も少なくなり、童謡を歌う子供も、それを教える母親も少なくなってしまった。
ウツギは北海道、本州、四国、九州に自生する落葉低木で、林縁や雑木林、崖、畦などに生え、根元からブッシュ状に育つため、昔は畑など耕作地の境界木としてよく植えられ、材質が固く木釘に使われている。
ウツギはウノハナ(卯の花)の別名もあり、卯月(うづき陰暦4月)に花が咲くから、茎の中心に空洞になって穴が開いていることから「うつろな木」の意味で名付けられたとも言われている。ウツギの名が付く植物はアジサイ科だけでなく、スイカズラ科のハコネウツギやバラ科のコゴメウツギなど茎の中に空洞のあるものに名付けられている。
住吉大社の創立記念日が神功皇后摂政11年の卯年、卯月の卯の日と伝えられウツギはゆかりの花として大切にされ、5月最初の卯の日に「卯の花神事」が行われている。
また長野県の生島足島神社では1月15日の「蛙狩神事」ではウツギの枝で作った弓矢を用い、その毒によりカエルがいなくなるといわれている。そのほか京都の上賀茂神社では新年の初卯の日に行われる「卯杖の神事」や九州の豊後高田市には空木という地名があり、奥愛宕神社ではウツギを使って火を起こす神事が行われる。(絵・文 戸部英貞)
寄付された「入間町2丁目崖線緑地」

野川に隣接する崖線樹林地
野川の下流域、国分寺崖線の一角をなす、通称「NTT崖線」の斜面地が、調布市に寄付されました。ここは東京都緑地保全地区・世田谷区特別保護区に指定されている「神明の森みつ池」へと続く緑の崖線です。今後1〜2年をかけて生物多様性の観点から専門家による調査が行われ、その後調布市から崖線斜面緑地の活用と保全方法が示される予定となりました。
かつて、今、そして これから
かっては防空壕や雑木林またNTT研修所グランド(以前は電通学園と呼ばれていた)への抜道として、近隣の子供たちの冒険の場所として親しまれていましたが、40年以上前に崖線斜面地がフェンスで囲まれてしまい自由に出入り出来なくなり、結果として比較的自然の状態のままの樹林地帯となっています。
一方ここ数年、土地開発が進み当該地も例外では無く、緑が無くなる状況( マンション建設計画)が出てきたことから、近隣の地元住民による緑を守る活動が始まりました。 崖線の緑から野川の水辺までの自然を親しみ、そして守る街づくり活動として「入間町・緑につつまれた街づくりの会」が発足し調布市と一体となって活動を進めてきました。(2016年民間マンション完成)
活動が進む中、所有者であるNTT東日本(株)社の理解と賛同が得られ2014年に緑地として保全される地区計画が決定され、その後、昨年2015年に斜面地部分が調布市に寄付されるに至ったものです。
この崖線斜面地の高木は猛禽類の営巣や渡り鳥の中継地点でもあり、樹林地帯は野鳥や動植物昆虫類のサンクチュアリとしての自然が確保され、また自然とのふれあいの場所としても今後活用・保全が期待されるところです。(WO)
7月24日の視察
手始めに現状を知るための視察(緑と公園課)に環境市民会議のメンバーが参加しました。NTT敷地周りの寄付された斜面地は幅もまちまちで一見するとさほど広いようには見えませんが、合計すると2・4ヘクタールほどになるそうです。当日は東に隣接する入間公園から植物などを観察しながら一周しました。(NK)
写真は、大規模マンションの敷地にNTTの社宅が点在していた2008年3月の状況。崖線斜面まで下刈りが行き届いています。
現況 に比べて、気持ちのよい雑木林ですが、生物多様性という点からはどうでしょうか。
ここの樹林の保全 にあたっては、大規模マンションが近接するエリアとそうでないエリアに分けて手の入れ方を変えるなどの工夫が必要のように感じました。それにつけても、マンションの住民や、崖上に今後できる学校や老人施設関係者に樹林保全の活動に参加してもらうことが大切と思います。(TO)
リポート:WO/NK/TO ※ちょうふの自然だより136号参照(編集部 )



調布の自然~チガヤのこと
チガヤのこと
「小さい頃はこれの穂が顔を出すと、ガムのかわりに噛んでたわ。」という年配の方は多いが、甘い物が豊富な近頃の子どもはそんな経験は無いだろうか。
多摩川土手も帰化植物であるセイバンモロコシが幅を利かせるようになったし、常に刈取られるために綿毛を見る機会も少ない。
近年は多摩川土手の手入れ(刈込)が行き届き、調布地域では充分なチガヤを手に入れることができず、府中方面へ刈りに行っていたそうだが、今年はとうとう神社の裏で育てたとのこと。


6月25日「夏越大祓式・茅の輪神事」(なごしのおおはらえしき・ちのわしんじ)が、布多天神境内で行われた。
半年間の罪穢れを祓い無病息災を祈るため、チガヤを束ねた大きな輪を神前に立てて、左、右、左と八の字状にくぐって廻る。
(※神道の儀式-つみけがれ-はらい)
写真左がチガヤを刈り取ったあとの小さな萱場。イラストは典型的な盆棚飾り。笹竹にわたす縄のチガヤも土手で調達するのが難しなってきた。
神代植物公園近くの22森にもチガヤが繁茂するため「盆飾りに」と地元農家の方が刈りにくることも。敷物につかわれるマコモは多摩川のワンドのあたりに群生している。(レポート鍛冶)
チガヤ(茅萱)イネ科=チ、チバナ、ツバナ
河川の土手や日当たりの良い法面に多く見られるチガヤは、北海道から琉球諸島、さらにはアジア大陸中西部、アフリカ、オーストラリアまでの広い範囲に自生するほか北米にも帰化しており「世界最強の雑草」とされている。『萬葉集』にも数首が詠まれている。
(戸部英貞 花の履歴書より…ちょうふの自然だより130号を参照)