「花の履歴書49」ウツギ(空木)

ウツギ(空木) アジサイ科

卯の花の匂う垣根にホトトギス
早も来鳴きてしのびねもらす夏は来ぬ…

年配の人ならば誰もが知っている有名な「夏は来ぬ」の一節だが、季節の風物を見事に表現した童謡で、その情景を思い浮かべ、懐かしむ人も多いのではないだろうか。

『万葉集』にはウツギを詠ったものが24首あるが、そのうち18首がホトトギスとの組み合わせで、いかに初夏とウツギとホトトギスの関係が結びついていたかを知ることができる。

しかし、ウツギの花やホトトギスの声を耳にするような場所も少なくなり、童謡を歌う子供も、それを教える母親も少なくなってしまった。

ウツギは北海道、本州、四国、九州に自生する落葉低木で、林縁や雑木林、崖、畦などに生え、根元からブッシュ状に育つため、昔は畑など耕作地の境界木としてよく植えられ、材質が固く木釘に使われている。

ウツギはウノハナ(卯の花)の別名もあり、卯月(うづき陰暦4月)に花が咲くから、茎の中心に空洞になって穴が開いていることから「うつろな木」の意味で名付けられたとも言われている。ウツギの名が付く植物はアジサイ科だけでなく、スイカズラ科のハコネウツギやバラ科のコゴメウツギなど茎の中に空洞のあるものに名付けられている。

住吉大社の創立記念日が神功皇后摂政11年の卯年、卯月の卯の日と伝えられウツギはゆかりの花として大切にされ、5月最初の卯の日に「卯の花神事」が行われている。

また長野県の生島足島神社では1月15日の「蛙狩神事」ではウツギの枝で作った弓矢を用い、その毒によりカエルがいなくなるといわれている。そのほか京都の上賀茂神社では新年の初卯の日に行われる「卯杖の神事」や九州の豊後高田市には空木という地名があり、奥愛宕神社ではウツギを使って火を起こす神事が行われる。(絵・文 戸部英貞)